2. ゲノム情報から植物の進化プロセスを明らかにする

ゲノム系統樹

 植物の進化を調べるにはいくつかの方法があり,化石を調べる,あるいは形状や機能の共通性や地理的な分布を調べることで,進化の歴史を推定することが可能です。これらの方法に対して,遺伝子やタンパク質の配列を比較する方法があります。分子系統樹と呼ばれる進化の歴史を表す図は,一般的に,さまざまな生物間における遺伝子やタンパク質の配列の類似性をもとにして書かれています。

 

 遺伝子の塩基配列は,DNAシーケンサーを用いて調べることができます。2005年くらいからは,次世代シーケンサーと呼ばれる装置が使われるようになり,それまでとは比べ物にならない速度で,さまざまな生物の遺伝子やゲノムの配列が解析されるようになってきました。また,配列データを記録し解析するためのコンピュータの性能や,GenBankやDDBJなどのデータベースに蓄積されるゲノム情報の量も飛躍的に向上し,現在では,多様な生物のゲノム情報を容易に入手し,解析することができるようになりました。

 

 こうした時代の流れの中,一つ一つの遺伝子ではなく,ゲノム情報を用いて分子系統樹を書く方法が模索されるようになってきました。例えば,色々な遺伝子のアライメント*1 を連結した仮想巨大アライメントで系統樹を描く方法,多くの系統樹を融合させる方法,ゲノムに含まれる特徴 (GC含量や特定の配列パターン,代謝系遺伝子群…) を比較する方法など,様々な方法が開発されてきました。
*1. 複数の生物種の遺伝子やタンパク質の配列を揃えて並べたもの。変異の位置や共通の配列がわかる。

 

 私たちは,遺伝子やタンパク質の類似性を調べるBLASTと呼ばれるツールを利用して,ゲノムに含まれる全遺伝子 (正確には全タンパク質) の配列を比較して分子系統樹を作成する方法を開発しました*2。そして,この方法を用いて光合成生物をはじめとする様々な生物の系統樹を描くことに成功しました*3。このようにして描かれた系統樹には,遺伝子で描かれた系統樹とは異なる進化の系譜も含まれており,今後,新たな発見につながる可能性があります。
*2. Satoh et al.  PLoS One. 2013; 8(7): e70290.,    *3. Yokono et al.  Sci. Rep. 2018; 8: 6800.

115種光合成生物

115種の光合成生物のゲノムで描いた系統樹

1087種

1,087種のゲノムで描いた系統樹

ゲノム系統樹の応用

 私たちは,ゲノム情報 (全遺伝子配列) を比較し,特定の生物に固有の遺伝子を探索する手法も開発しました。そして,実験的なアプローチが困難な生物種から,光合成色素の合成遺伝子を単離することができました*4, *5。また最近,この方法をメタゲノムに応用し,微生物生態系の分析や生態系間の比較解析を行う手法の開発に成功しました。現在,この方法を用いて,農業圃場の土壌微生物生態系の調査や土壌消毒 (土壌病害の防除手法) を実施した際の微生物群集の変化に関する解析を進めています (詳しくはこちら)。
*4. Satoh and Tanaka.  Plant Cell Physiol. 2006; 47: 1622-29.,   *5. Harada et al.  PLoS One. 2014; 8(4): e60026.