植物の進化には葉緑体の獲得,水生植物の陸上進出といった興味深いプロセスがたくさん含まれています。このような進化の過程では,ゲノム上で多数の遺伝子の獲得・消失が起こり,さらには転写調節系の獲得・変化のような遺伝子発現レベルの進化も生じます。例えば,葉緑体の起源は植物の祖先生物の細胞内に共生したシアノバクテリアですが,現在の植物の染色体には千以上のシアノバクテリア起源の遺伝子が含まれています。これらは,進化の過程で葉緑体ゲノムから核ゲノムに転移し,そこで新たに転写調節系を獲得したと考えられています。
一方,真核ゲノムには転写される領域と転写されない領域がありますが,この二つを区別する根本的な仕組みには,まだ多くの謎があります。20世紀の生物学では,転写領域はプロモーター配列によって単純に決定されると考えられていましたが,21世紀の今日では,クロマチンの微細構造やDNAの化学修飾などを含む「エピジェネティックな仕組み」が,ゲノムDNAの「読み方」に大きく関わることがわかってきました。